2023/06/23 14:10
ソムリエ協会発行の【Sommelier 2023年3月刊】に自然派ワインに関する、非常に勉強になる記事が掲載されていた。
『日本の自然派ワインの現状をどう分析していますか? ~安蔵光弘氏に聴く』取材・文:小原陽子
このタイトルで9ページにわたって掲載されている特集記事が、専門的かつ分かりやすく「自然派ワイン」を解説している。それだけでなく自然派ワインを語る者のほとんどをぎくりとさせる、そんな内容になっている。
日本市場は「自然派」という言葉に振り回されている
❝日本ワイン業界は近年非常に大きな盛り上がりを見せており、全体としての品質は明らかに高まっています。多くの新規ワイン生産者が現れ、日本ワイン業界が活気づくのは良いことです。しかし残念ながら中にはブドウ栽培やワイン醸造の基本を知らないまま、ロマンだけで造られた欠陥ワインの流通を許容している場面も散見されます。それらのワインが「単に生産量が少ないだけ」であるにもかかわらず「希少だ」とメディアに取り上げられ、消費者がそれに飛びつくという市場を、本業であれ、趣味であれ、ワインに深く関わっておられる読者の皆様はどう見ていらっしゃるでしょうか。一方で日本市場は日本ワイン、輸入ワインに限らず「自然派」という言葉に、語弊を恐れず言えば「振り回されている」市場でもあります。海外からは「日本市場なら失敗した臭いワインでも自然派と言えば売れる」とみなされていることをご存知でしょうか。その傾向は、本来なら欠陥とすべき「日本ワイン」に対する寛容さにも表れていると言えるでしょう。❞ー以下省略ー
頷ける。頷けすぎて首が痛い。
私は、レストランのソムリエとしてワインリストの構成には注意を払っている。王道の、誰もが知るような生産者のワインだけでなく、特に最近は上質な「自然派ワイン」もオンリストして目新しさがいくらか見て取れるワインリスト作りを心掛けている。しかしその上質な自然派ワインに巡り合うには相当な忍耐力が必要となる。なぜなら、私の経験上クリーンでおいしい「自然派ワイン」は少なく、探し出すのに時間がかかるからである。
先日参加した飲食店・酒販店向けの自然派ワインに特化した合同試飲会では、およそ半数のワインが飲めたものではなかった。私は自分のことを優れたテイスターとは決して思っていないが、それらのワインは明らかに還元臭、豆臭を放っておりまず私自身の好みではなかった。もしそれらを店に置いたとしてもよっぽどの物好きなお客様からしかお金を取ることはできないだろう。しかし、それらワインの輸入元はおすすめワインという形で試飲会でラインナップしているし、私の隣では「うまいねぇ」とうっとりした顔をする参加者が何人かいたのには本当に驚いた。これが今のトレンドなのか!?自分の舌がおかしいだけなのか!?となんの収穫もないまま自信を無くして帰ってきたが、後日、信頼している酒屋の主人にその話をすると、酒屋の主人も同じ試飲会に参加していたらしく、「全然いいワイン無かったですね」という同様の感想を聞いて、ほっとした。
「自然派だから頭痛は起こらない」というプロを信じてはならない
過度に亜硫酸が添加されたワインを飲むと頭痛を引き起こすのだとなんとなく思っていたが、それは間違いであった。
実は亜硫酸と頭痛は全く関係ないらしい。
頭痛は「生体アミン」という物質が関係している。
[生体アミン]
ヒスタミンとチラミンを主体とする化学物質。
デカルボキシラーゼ活性を持つ微生物によってアミノ酸が分解されることで生成する。頭痛の他、吐き気や顔の紅潮などがもたらされる。
最近の研究で醸造初期に亜硫酸を少量添加するとその発生リスクが大幅に抑えられることが判明している。
つまり亜硫酸を入れないから頭痛が起こらないということは、ない。
生体アミン発生を防ぐのに有効な亜硫酸添加は、30ppmという極少量でいいとのこと。
さらに言うと、市販されている培養酵母や培養乳酸菌は、生体アミン生性能のないものが選ばれているらしく、それらを使えば亜硫酸を使わなくても生体アミンの生成リスクが最小限になる。
それらも使用しない自然派が、「自然派だから頭痛が起きませんよ」と言うのは矛盾の極みであり、ソムリエや生産者らワインのプロがそのような事を言おうものなら己の無知をさらけ出し、たちまち信用を失ってしまう。
この記事を読んで本当に良かった。
[亜硫酸添加量のスケール感]
日本の法定最大添加量は総亜硫酸として350ppm。
INAOが定めた「自然派ワイン」の定義とされるヴァン・メトード・ナチュールで認めている添加量は30mg/L。
自然派推進派のイザベル・レジュロンMWが運営するRAWワイン・フェアで出店するワインの亜硫酸量の上限は70mg/L。
※mg/Lはppmとほぼ同じ。