2023/06/23 21:26
ソムリエ協会発行の【Sommelier 2023年3月刊】に自然派ワインに関する、非常に勉強になる記事が掲載されていた。
『日本の自然派ワインの現状をどう分析していますか? ~安蔵光弘氏に聴く』取材・文:小原陽子
この記事ではブドウの栽培、ワイン醸造の各工程で存在する幾つものパラメーターの意味と測定することの重要性が紹介されている。
[pHの重要性]
ワイン醸造においてpH3.8以上となる場合はリスクが非常に高まる。1つは亜硫酸の効果。酸化防止および微生物増殖抑制の効果があるのは遊離亜硫酸のみで、特に「活性型」の遊離亜硫酸は効果が高い。pHが高くなるとどんなに亜硫酸を加えても活性型が出来なくなるため効果が弱くなる。2つめは微生物安定性。pH3.8を超えると酢酸菌や悪玉乳酸菌の増殖抑制が難しくなるため、欠陥臭のリスクが高まる。亜硫酸の効果も低下するのでそのリスクは非常に高い。
[MLFとリンゴ酸]
リンゴ酸が0.2g/L以上残留しているワインは微生物安定性に問題があるとされるので、MLF(マロラクティック発酵)の完了、亜硫酸添加や濾過などの対策を考慮するのが教科書的な基本。リンゴ酸が残っていて、無濾過、亜硫酸無添加となれば瓶内に残っていた菌によって好ましくない二次発酵が起こるリスクが高まる。この二次発酵では当然ワインの味わいも変わるし、欠陥臭が発生する可能性もある。
[NTU (Nephelometric Turbidity Unit)]
液体のにごりの度合いを測る単位。特に発酵前の果汁と、瓶詰前に測定することでそれぞれ重要な意味がある。一般的に発酵前は200~300ぐらい必要だと言われている。あまりにクリアだと発酵中に吟醸香に代表されるエステルが発生してしまう。瓶詰時の判断は1桁で3以下。当然目視での判断は無理であるから測定器が必要になる。
その土地で収穫されたブドウに、なにも足さない、なにも引かない、という理念に加えて、「なにも測らない」自然派生産者が多く存在するのだそう。いくつも存在するパラメーターを計測した上でベストなタイミングでブドウを収穫でき、発酵を見極め、丁寧な滓引きが出来れば、不必要な亜硫酸を添加することなく微生物による汚染リスクを下げられるのだという。
この記事を読んだことで、いままで幾度なく感じていた「自然派ワイン」の味への違和感が紐解かれた気がした。自分の感覚は間違っていなかったんだって。「おいしい」という感覚はあくまでも個人の主観で、好き嫌いには個人差があって当然。けれど「おいしい」の基準をあげることは出来る。おいしい自然派ワインを知っていれば、それを個性ではなくて単なる欠陥だと判断できる。
生産者はテロワールを表現するために様々な努力をして、そのなかには数値的な分析も含まれているからこそ、販売する側、消費する側は商品そのものの質を評価してあげた方が作り手側も嬉しいはず。
ソムリエとして、酒販店として、生産者の哲学的、情緒的な側面のみを伝えることなく、本当においしいと感じるワインを発信していきたい。